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幻想
51





「この後宮では誰もが等しく平等に扱われるのです。決して陛下が誰か1人の者になるなど御座いません」

そうエーリオを諌められるアナスタシア様は、今まで見たこともないような暗く、冷たい目をなさっていた。

「アナスタシア様……?」

思わず名前が口を出た。まさかあのアナスタシア様が、そのような目をするなど思いもしなかったのだ。
しかし、そんな私の小さな呟きは、続けて立て続けに聞こえてきた妾后たちの声で掻き消された。

「ふん、なんて無様なんでしょうね」

「自分が陛下に選ばれたとでも思って?」

「陛下は貴方だけのものではないのよ」

「勘違いしちゃって、恥ずかしい子ね」

多数の影が、エーリオを攻撃する。泣いているエーリオに容赦のない言葉が掛けられる。
なんて慈悲の無い行動だろうか。誰も泣いているエーリオに手を差し伸べる人間がここにはいなかった。
アナスタシア様の言葉を皮切りに次々と今までエーリオに溜まっていた鬱憤を吐き出す妾后たち。まるで弱い者苛めをしているようだ。あまりの言い様に、思わず口を挟まずにはいられなかった。

「それは言い過ぎではありませんか、泣いているエーリオに対して皆で寄って集って」

「まあ!ラウル殿。その子を庇われるのですか?貴方だって散々言われていたじゃない」

「そうよ。それじゃあ私たちが悪者みたいじゃない。私たちはこの子にただ現実を教えてあげているだけなのよ?」

自分たちの行いを正当化する物言いに、幻滅した。
彼女たちに何を言っても、無駄だ。

「エーリオ……」

私はエーリオに向き直った。
妾后たちに一方的にやり込められたエーリオは小さく震えていた。
その姿に庇護欲を掻き立てられ、思わず手を伸ばしていた。

――――――――パシンッ!

伸ばした手は、エーリオによって拒絶された。
涙を浮かべて目で、キッと私を睨むとエーリオはそのまま走っていった。

「まあ!なんて野蛮な子」

「ラウル殿が折角、差し伸べて下さった手を断るなんて」

「今までずっとラウル殿に守られていたくせに、恩義知らずな方」

掛けて行くエーリオの背中にまで、攻撃を辞めない彼女たち。
エーリオが来る前までは、私を中傷する言葉しか口にしなかった彼女たちが、エーリオが来た瞬間、コロッと手を返したように私を擁護し、エーリオを中傷し出した。
一体彼女たちの精神構造はどうなっているのか、私には到底理解することができない。

「陛下がいらっしゃいます」

そんな中、やって来られたアルベルト殿。いつものように陛下の来訪を告げられたが、この場に流れる異様な空気を感じ取られ、怪訝な顔を浮かべられた。

しかしそんなアルベルト殿を余所に、他の妾后たちは一斉にこの場を辞去し、陛下の下へと向かっていった。
―――残されたのは、私とアルベルト殿だけだった。





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あきゅろす。
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